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WELCOME、NEW LIFE(2/3)
「わ~ここが家なんだね!」
嬉しそうな顔をして淳はタクシーから飛び出した。義武はタクシー代を払って玄関に駆けつけた。鍵を持っているのは自分だけなのだ。
「はい、鍵はここ」
「ありがとう」
少々手間取って鍵を開けると、淳は中に入っていった…が。
「わ~~~~靴っ!靴はここで脱いで!!」
「え?あぁそうなんだ」
早速のカルチャーギャップに義武はふと一抹の不安を覚えた。
このときはまだ、彼女のボケの大半が別段文化の違いのせいではないということに気付いていない義武であった…。
淳の荷物は前日に届いていたので、梱包を解かずに部屋の入り口付近に運んであった。とりあえず、それを片付けてもらわなくてはいけないだろう。
手伝ってもよいのだが、女の子の荷物に手をつけるのもどうかと思うので、とりあえず聞いてみることにした。
「え~~と、なにか手伝おうか?」
「うん、そのダンボールガンガン開けちゃってくれる?」
一体なにを送ってきたのか、ダンボールは結構な数だった。「中身はだいたい洋服だよ~」と淳が言う。とりあえず、手近な箱を開けてみた。
…が。
中身をちらりと見て、義武は即座に箱を閉めてしまった。
「これはちょっとオレが出すわけには……」
「え?何?」
箱の中は一面下着の山だった。
「あぁインナーはこの引出しにしようかな~」
義武の目も気にせず箱の中からさっさと取り出すと、淳はクローゼットに下着やら洋服やらぎゅうぎゅう詰め込み始めた。
その様子はまさにぎゅうぎゅうという擬音がぴったりの詰め込み方だった…。
「待て!たたんで入れないとダメだって!それじゃ着る時シワだらけだよ!」
「う~ん…でも私たたむの下手なんだよね。なんかコツない?」
「コツも何も、練習あるのみ!」
確かに手つきはぎこちなく、たたみ方はヘタクソだった。もしや彼女…不器用?
しかし何事も練習、今後のためにも心を鬼にして彼女にたたませ、義武は昼食の支度に取り掛かることにした。
「昼はミートスパゲティにするけど…食べれる?嫌いなものがあるなら聞いておくけど…」
「う~ん、特にないけど…ああ生ものはちょっとダメかな。お寿司とかお刺身とか」
そうは言ったが、でも食べられないわけじゃないから平気、と付け加えた。
「義武は料理が得意なんだってね。あ、ねぇねぇ、作るの見てていい?」
「別にいいけど…片付けは?」
「う…大丈夫、今日寝るまでには終わらせる!」
「よし、それじゃあ手伝ってもらおうかな」
「え……っとぉ…」
…このときはまだ何も知らない義武の言葉に、淳は一瞬固まった。
キッチンに行くと、義武は手馴れた様子で鍋やら食材やら取り出し、まずはホールトマトを煮詰め始めた。
「じゃあ淳、その玉ねぎ刻んでもらっていいかな」
「こ、これ…?どうやって??」
「どうって…みじん切りでいいんだけど」
まな板の上の玉ねぎを穴が開くほど見つめながら、淳は観念して白状した。
「…あのね、実はやったことないんだけど、やり方教えてくれる?」
…はい?やったことがないって、みじん切りが?それともまさか…
「包丁の持ち方はこれでいいの?で、切るには狙いを定めてどすっと降ろせばいいのよね?」
…狙い?ど…どすっと…!?
「……淳」
「なに?」
「オレがやるから、そこで見ててくれればいいよ」
「うん」
明らかにホッとした様子で、淳は包丁を下ろして一歩下がった。義武はトマトの火加減を確認して、玉ねぎに取り掛かる。
わ~すご~い、上手ー!…という、淳の歓声を聞きながら、義武はさくさくと玉ねぎを刻んでいく。
沢村洋氏の言葉…家事もロクにできないだろうから、娘一人じゃ心配でね…を、ひしひしと実感しながら…。