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WELCOME、NEW LIFE(1/3)
…思わぬ事態になってしまった。
義武は正直そう思っていた。
夏休み。彼は諸々の事情から家出を敢行し、バイト先である喫茶「ガンマン」に転がり込んでいた。いつまでもマスターの世話になるわけにもいかないのだが(面倒見のいいマスターのこと、それでもかまわないと思っているには違いないが)、高校生が保護者なしで部屋を借りられるわけもなく、たとえ借りられたとしてもこれまでの蓄えた金額程度ではすぐに家賃を払えなくなってしまうだろう。
だから、父の親友である沢村洋氏に持ちかけられた提案は魅力的だった。
家事は得意だ。はっきりいって自信がある。
……だけどまさか、同い年の女の子と同居することになろうとは。
沢村氏の娘がやってくるという数日前、義武は彼と共に沢村家にやってきた。
沢村家は何年も使っていないという割にはそれほど荒れてもおらず、都内にしてはかなり広い敷地に建つ二階建ての家だった。
「たまに手入れしに来てたからね。雑草がはびこっちゃ、近所の人間に幽霊屋敷だと思われちゃうだろ?」
沢村氏は冗談めかしてそう言った。
彼がなぜこの家に住まずにマンション暮らしをしているのかはわからないが、彼一人で住むには大きすぎる家であることは確かだ。
「それじゃ、明日から水道や電気を使えるように手配しておいたからね。なにかわからないことや困ったことがあったら私に連絡してくれたまえ」
「はい。ありがとうございます。お世話になります」
「こちらこそよろしく頼むよ。ところで、アメリカから来る娘を空港まで迎えに行って欲しいんだが…」
そう言って、彼は義武に写真を手渡した。
写真に写っているのは年齢より少々大人っぽく見える綺麗な少女だった。
写真に慣れていないのか、その笑顔はどことなくぎこちない。しかしそのぎこちなさがあるからこそ、彼女が人間らしく血が通って見えた。これだけ整った容姿だと完璧に微笑まれたらそれこそ人形のように見えるだろう…。
「淳というんだ。美人だろう?」
沢村氏が溶けそうな笑顔で言った。
…ああ、やっぱりこの人はいいな。
義武はそう思った。
彼の娘だ、きっとうまくやっていけるだろう。
「あ、それからその写真はあとで返してね」
…そうつけ加えることを忘れない沢村氏であった。
「沢村淳よ。よろしくね」
大立ち回りを演じた(と思われる)のち、気さくに微笑む淳の姿を見て義武は少しホッとした。
正直、写真からは冷たく、とっつきにくい印象を受けていたのだ。しかし実物の彼女は冷たさの対極にいた。
(なんとかやっていけそう…かな)
……そんな義武の安心を吹っ飛ばすのに、たいして時間はかからなかった…。