100番目の恋(1/4)

 最初の恋のお相手は、幼稚園年少組の頃同じクラスだったわかなちゃん。
 ふわふわしたくせっ毛が可愛いにこにこした女の子だった。
 お子様らしい愛情表現の末、「阿部くんなんて大っ嫌い!!!」と力いっぱい振られてしまった、苦い初恋…。
 今となっては女心がまったくわかっていなかった当時の自分のアホさ加減に暗澹とする思いだ。

 「だが、そんなヘマはもうしない!!今年こそ…今年こそ可愛い彼女をゲットするんだぁぁぁ!!!
 今年の初詣で、阿部が心の中で絶叫した新年の願いはまさにこれだった……。


 「可愛い新入生は入ったかな〜♪」
 4月、新学期。
 悪友・仲代と、部員勧誘を行っている義武の元に向かいながら、抜かりなく辺りに行き交う新入生チェックを行う阿部に仲代は呆れた声を上げた。
 「おまえ、春休みにバイト先で目ぇつけたとかいうオンナはどうなったんだよ。まったく、気の多い奴だな」
 痛いところを突かれて、阿部は一瞬黙り込む。
 「ははぁ、またフラれたか」
 その反応に面白そうにとどめを刺す仲代であった。
 こういうとき、彼女持ちの仲代が余裕たっぷりに見えて憎たらしい…。どんな彼女か一度も見たことはないが(よくも隠し通してくれるものだ)、たとえどんなだろうといるだけいいではないか。
 「さて、と。義武の奴、新入部員つかまえてくれたかな」
 瀬川義武は三ツ葉学園に入学してすぐに友人になった人物だ。もっとも友人と思っているのはこちらだけかもしれない。人当たりのいい奴だが、どことなく壁を作るようなところがあるように思える。
 「うわ…すげぇ浮きまくり…」
 呆然と呟く仲代の声にふと目をやると、新入生勧誘のために並べられた机のひとつに陣取った義武の元に、沢村淳と、いつの間にやらアメリカから帰ってきた上に転入したらしい吉倉晶の姿が見えた。
 義武を餌に可愛い新入部員を捕まえようという作戦だったのだが、綺麗どころが集まりすぎて目立ちまくり、周りの生徒たちは近寄れず遠巻きに眺めている…。

 去年の11月に転入してきた沢村淳は、本人は自覚がないようだが、自然と周りの注目を集めてしまう少女だった。なんといっても、恐ろしく美人だ(これも本人は自覚していない…)。
 整い過ぎていて人形めいた印象さえ与えかねない容貌だが、生き生きとしたパワーが溢れていてそれを回避している。
 義武が常に側にいるせいか男子生徒達は彼女に言い寄ったりしないようだが(義武に勝つ自信がある奴はそういない)、なんとなく言い寄りがたい雰囲気があるのも確かだ。
 美少女と見るとすぐさまのぼせ上がる阿部ですら、彼女にはアプローチしない。彼女のその雰囲気もさることながら…
 (オレよりデカいし……)
 はぁ〜っと溜息をつく。

 阿部はひそかに自分の身長を気にしているのである。
彼は身長165センチ、これ以上伸びる可能性もなきにしもあらずだが、あまり期待は持てそうにない。
 (彼女にするなら身長152、3センチくらいの、オレより小さい可愛い女の子がいいなぁ〜…)
 ちまっとしてふわふわっとしてにこにこっとして可愛い女の子。お菓子作りなんか得意だったりして、体育がちょっと苦手だったりして…うう〜ん、いい…。
 どうやら彼の理想は一昔前の少女マンガのヒロインっぽい気がしないでもない…。
 「淳せんぱいっ!」
 頭がそれぞれ紫・黄色の阿部・仲代が入ったことで、より一層近寄り難い雰囲気を醸し出している彼ら5人の元に、阿部の頭の中の“三ツ葉学園女生徒リスト”に載っていない少女が駆け寄ってきた。
 (お、お、お、おぉぉ〜〜?)
 ふわふわのにこにこだ。しかもなにより…
 (オレより小さい…ッ!!)
 よっしゃぁ〜っ!…と、ひそかに快哉を叫ぶ阿部であった。
 「詩織ちゃんっ!三ツ葉に入ったんだぁ!」
 どうやら淳の知り合いらしい。
 (しおりちゃんっていうのか〜〜)
 春の訪れと共に、阿部の心にも花が咲いた。

 …阿部本人はよもや数えてもいまいが、それは、記念すべき通算100番目の恋であった。

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