HOMECOMIC番外編

100番目の恋(4/4)

えぇっ、婚約者!?うわぁ凄いね~、詩織ちゃん」
 「きゃ~~~淳先輩っ、そんな大きな声で…シーッシーーッ!!」
 素朴に驚きを表す淳を、詩織は慌てて諌めた。
 「ふぅんその様子だと相思相愛って奴なんだ?意外だな、詩織ちゃん」
 「相思相愛だなんて…やめてください~~っ仲代先輩ッ!」
 詩織は両手で真っ赤になった顔を覆って恥ずかしそうに俯いた。
 「じゃあ詩織ちゃん、ますます今日は頑張らなくちゃ!」
 動揺する詩織に、いつもと逆転して淳の方が力強いことを言う。その淳の言葉に、詩織ははっと顔を上げた。
 「そ…っ、そうですねっ!いいとこ見せなきゃですよね!!」
 そして彼女は、阿部と仲代の存在は忘れたかのように一直線に、新体操部が演技を行う講堂に淳と共に向かっていったのである…。

 「さっすがお嬢、婚約者だってさ」
 「……」
 仲代が話し掛けようと、阿部はもはや言葉も出ない。
 「しかもあれは親公認だな」
 「……」
 「おまけに見事に爽やか好青年」
 「……」
 「ま、所詮縁がなかったんだ、諦めろよ?」
 「……」
 「あ、それからこれはこれ、ライブ手ぇ抜きやがったらシメるぞ?」
 「……………くッ」
 ようやく我に返って、
 「くっそ~~~~!ライブキメて、今度という今度こそ可愛い女の子をゲットしてやる~~ッ
 …いつものセリフを絶叫するのであった。


 さて後日。
 「ま、心配することはないだろうな…」
 創立祭が終わり、活動が小休止している軽音の部室に、阿部の姿はない。
 彼は恒例ともいうべき、美少女ウォッチングに出かけている…。近隣他校生にまでチェックを入れる彼の熱意(というより、もはや執念)に、失恋の影は見当たらないように思えた。
 「オレははじめっから心配なんざしてない」
 「仲代…」
 あっさり薄情なことを言う仲代に、義武もさすがに苦笑した。
 「まぁ、阿部の失恋はいつものことだけど…」
 「そう。っていうか、あいつのアレは恋とかいうもんでもないだろう。あれだよ、芸能人なんかにミーハーに熱上げるのと一緒」
 「そうなのかなぁ…」
 「それでいいんじゃねーの?」
 部屋の片隅で少年漫画雑誌を読んでいた晶が顔を上げる。
 「そのうち本気で惚れる相手が見つかるさ。それまで軽~くシュミレーションしておくのも悪くないだろ。フラれた数だけ恋愛上手になるってもんだ」
 「そういうもんなのかなぁ…」
 義武にはよくわからない世界である…。

 100回恋して、100回フラれて
 101回目は、102回目は…きっともっと上手に恋が出来るだろう
 そしていつか
 たった一人の人にめぐり逢う

 「じゃじゃーん!聞いてくれ仲代!義武!かっわいいコ見つけたぞ~♪」

 その時のために今日もまた、彼は新たな恋をする。

 「その時」が、いつ訪れるのか
 それは
 …神のみぞ知る………。

~The END~