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100番目の恋(3/4)
4月下旬になると、三ツ葉学園では早速創立祭の準備が始まる。
普通の学校なら新学期のこんな早くにクラス団結して物事を進めるのは難しそうなものだが、エスカレーター式の三ツ葉学園ではほとんどの生徒がすでに顔見知りの状態のため、さほど懸念材料にはならない。
基本的にクラス単位の企画がメインだが、それに部活・同好会、有志諸々が加わりお祭りを盛り上げる。
軽音楽同好会も無事ステージ使用の枠を確保し、練習に励むのだった。
「まさかこんなに早く発表しなきゃならなくなるなんて…」
弱気な声を上げているのは淳だ。
新体操部は模範演技を行うのだが、部員数が少ないため今年入ったばかりの淳と詩織も出場するのだという。
詩織は中学でもやっていたのでなかなか安定した演技を見せるが、淳は目をひくものの、技能の方がまだついていかない状態だった。
「まだ一ヶ月ちょっとあるんですから大丈夫ですよ!淳先輩運動神経はいいし、すぐ上手くなりますって!」
弱気な淳を激励する詩織…なんとなく意外で、なかなか面白い構図だと阿部は思った。
ほわほわした詩織だが、意外とこういうところで強い姿勢を示す。彼女の言葉に、弱気になっていた(これも少し意外だ)淳も元気づけられているようだ。
(確かに詩織ちゃんに「頑張って」とか言われたらなんでもやるかも~~)
ドリームを膨らます阿部であった…。
「二人とも頑張りなよ。オレ絶対見に行くからさ~♪」
阿部がそう言うと、
「ありがとうございます。頑張りますねっ!」
詩織は元気に答えた。
「阿部先輩も頑張ってくださいね。軽音のライブ、楽しみにしてますから」
(よぉ~し、いいとこ見せるぞっ)
阿部はそう決意した。
「…まさかとは思うが、おまえの次のターゲットは詩織ちゃん?」
体育館が空くまで軽音部室で時間を潰していた淳と詩織がいなくなると、仲代は阿部におもむろにそう尋ねた。
「………なんだよ、そのまさかってのは」
「………」
譜面を眺めていた義武までもがこちらのやりとりを聞いて固まっている。
「おまえ…無謀!」
「なんというかなぁ…ちょっといくらなんでもタイプが違いすぎるんじゃ…」
「その通り。なにしろ彼女はお嬢だぞ、お嬢!毎日高級車で送り迎えされて学校来るような子だぞ」
二人は口々にそう言った。
「そんなことは障害になるものか!オレは決めたんだ!創立祭のライブをバシッと決めて、彼女に告白するのだ!やるぞ~~~っ!」
二人の心配(?)をよそに、阿部は一人燃えまくっていた。
さて、紆余曲折を経て創立祭第一日目がやってきた。
快晴、お祭り日和である。
軽音楽同好会のライブは午後の、最後の方のプログラムなので、それまではじっくりお祭りを見て回るつもりの阿部と仲代だった。
淳たちのクラスの『男装女装コンテスト』を見終わったあと校舎をまわっていると、ちょうど男装姿のままの淳と、詩織と行き会った。
「あ、淳ちゃん、詩織ちゃん!もうすぐ新体操部の発表だろ?」
「うん。見に来てくれるんだよね?阿部くん、仲代くん」
「「もちろん」」
二人は声を揃えて答えた。
と、その時だった。
「詩織!」
声のほうに目をやると、壮年の男性と、大学生くらいの青年がこちらに手を振っている。
「パパ!かずくんまで!やだ、来ないと思ってたのに」
そう言って、驚いた様子の詩織は二人の方へと駆け寄っていった。
細身で穏やかそうな壮年の男性はおそらく詩織の父親だろう。だが、脇に控える青年は何者だろう?詩織にも詩織の父にも似ていないし、彼女の様子からも兄という感じではなさそうだ。
白い歯がきらっと光る、絵に描いたように爽やかな青年である。
…阿部はなんとなく、いやかなり、嫌な予感がした。
「お父さん見に来てくれたんだね、詩織ちゃん」
二人の男が立ち去ると、こちらに戻ってきた詩織に淳が声をかけた。
「……どうしよう」
「え?」
先程までの明るいリラックスした様子はどこへやら、なにやら深刻な面持ちになっている。
「ひどいわ、パパってば!かずくん連れてくるなんてちらりとも言ってなかったのに!あぁぁどうしよう~~っ」
半泣きで、両手で顔を覆ってパニックに陥っている。突然の変化に淳も驚いた。
「ど…どうしたの?詩織ちゃん」
「かずくんに見せるの恥ずかしいから、ずっとずーっと新体操のこと黙ってたのに…あぁやだやだ、どうしようっ!」
「かずくんて…さっきお父さんと一緒にいた人?」
「あれ誰?お兄さんとかじゃないよな?」
阿部が知りたかったことをズバリ尋ねたのは仲代だった。
「え…はい。かずくんは、その…なんというか…」
そこで“ぽっ”と音がしそうなほど瞬間的に頬を染め、消え入りそうな声で詩織は続ける…。
(あぁぁぁやめてくれっ!その先は…その先は聞きたくないーーーーッ!)
「いわゆる婚約者っていうか…あっあのでもお兄ちゃんみたいな人なんですけどっ」
ちゅどーーーーーーん!!
阿部の心の声などお構いなしの、その発言はまさに地雷か核爆弾か…。
哀れ阿部、見事撃沈……。