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ターニング・ポイント(3/5)
思えば、どこでどう間違えてしまったんだろう。
やりたい仕事のために故郷を離れて来たっていうのに、ロクに仕事はさせてもらえないし、大学時代から付き合っていた彼には遠距離恋愛が上手くいかずフラれてしまったし、その隙につけ入られて不倫なんてやらかしちゃったし、それがバレて今度は会社までクビだって?…いったい私の人生ってなんなのよ。
「くそ~~~ッ!人生でもっとも華やかなはずの二十代がなんでこんなことに!!私の時間を返せ~~~ッ!」
「バーテンさん…このおねーさんってば、飲むとこうなわけ?」
「いや…いつも静かに飲んでるんだけどね…っていうか、今日は飲みすぎじゃないかな?」
挙句にバーで未成年と酒盛りだなんて、堕ちたものだわ…。
「まぁもうちょっと飲ませちまえば静かになるだろ。ほらアン、ぐいっといっちまえ、ぐいっと」
「コラ!酔い潰して悪さしようなんて考えてるんじゃないでしょうね!?ロクな大人になれないわよ!」
「ヤだなぁ、オレがそんな男に見える?酔い潰した女手篭めにするほど不自由してないよ。臨界点まで飲んだくれていっちょ吐いて来いって言ってんのさ」
「せっかく飲んだのに吐くなんてもったいない~」
「困ったねーさんだなぁ」
人生最悪の日のこの私を引っ掛けてしまうなんて、アキラもよくよくついてないわね。
そんなことを考えながら、薄れゆく意識の中でアキラの呆れた声を聞いていた…。
「あ、起きた?」
眩しい。
視界に飛び込んできたのは、見慣れたライトと、私を覗き込むアキラの顔。
「アキラ…ここって私のアパートよね?あれ…どうやって帰ってきたんだっけ…」
「覚えてないの?アンってば酔っ払って眠っちまったから、オレここまで引きずってきたんだぜ」
バーで飲んでたところまでは覚えてる。結構いい気持ちで飲んだくれて…いつの間にやら眠ってしまったらしい。
こっそり服装を改めてみたが、なにかされた様子はない。
「…なんで家知ってるの?」
「それも覚えてない?オレが聞いたら住所教えてくれたじゃん」
う…う~む…家まで知られてしまった…。この夜限りのナンパ相手にまずい展開だ。
でもまぁいいか…この子、悪い子じゃなさそうだし。
「水飲みなよ。ちょっと飲みすぎたみたいだね、アン」
いつのまにやら、コップに水を汲んで持って来てくれた。前言撤回、悪い子じゃないどころか、なんていい子かしら。
「それにしても、片付いてはいるけど色気のない部屋だね~」
部屋にごちゃごちゃと物を置くのが好きではないので、まるでカタログにでも載ってるような殺風景な部屋なのだ。
「そこのパソコンって自作だろ?アン、詳しいんだね」
「あぁそうだ!思い出した」
「え?なに?」
「昨日からパソコンの調子が悪いのよ。ウィルスなのかなぁ…電源入れると一面の砂嵐に、ゲームオーバーの文字…こんなウィルス、聞いたことないけど」
…そう、このことも頭が痛いのだ。会社で使うデータも入っているのに、このままでは初期化することになるだろう。
(どうせクビなら、データなんてどうでもいいか)
つい、そんなことを考えてしまう。いかんいかん、そんな後ろ向きでどうするの。
「そのウィルスなら、知ってるよ」
そう言いながらアキラはパソコンの電源を入れている。やっぱり起動されず、ザーっという微かな音と共に画面の中央にはGAME
OVERと、文字が現れる。
「…え?知ってるのアキラ?」
その問いかけに、アキラは今までになく不敵な表情で答えた。
「知ってるよ。これを作ったのはオレだから」
「え………?」
「さて、茶番はここまでにしよう。ゲームオーバーだ、詳しく話を聞こうじゃないかアン。いや…」
綺麗な緑の瞳で、まっすぐ射るような視線を私に向けて…。
「ミス・アリシア・マードック」
…冷たく鋭い口調で、私の名前を言い放つ。