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目撃者(2/3)
元ガンマンのメンバーたちにとって3月は特別な月だ。
3月になるととたんにそわそわしはじめ、やたら皆と連絡を取り合うようになる。話題はひとつ―みんなのアイドルまりあさんのバースデーパーティ、である。
どんな服装で行くか、どんな話をするか…その様子ははっきりいってアイドル歌手のミーハ―親衛隊なんかと大差ないだろう…。
抜け駆け禁止協定が結ばれているため誰であろうとプレゼントの類は一切禁止、唯一の例外と彼らが黙認しているのが、トップとまりあが目をかけていた義武と、他ならぬトップである(ただし義武のプレゼントとは、ひそかに彼らも楽しみにしている彼の手作りケーキだし、トップは黙認しているにもかかわらずまりあさんにプレゼントを渡している気配がまったくない)。
なにしろまりあさんはトップにベタ惚れ、それはメンバー全員、それどころか敵対していた族の連中も、しつこく追ってきた警察の連中でさえも知るところである。他ならぬトップが相手ではまったく歯が立たんと、彼らは男泣きに泣いたものだ…。
ところが、そんな彼らの心情もつゆ知らず、トップはまりあさんにつれない(と彼らは思っている)。まりあさんの恋のためなら、メンバー全員一致団結してトップを策略にはめることすら厭わないくらいなのだが…。
そんな彼らのうち数名が、ちょっくらバイクを転がしていたとき馴染みの島警部に会ったのは、まりあの誕生日のほんの二日前。
「おう、久しぶりだなぁ!」
「島さん!ちょっと太ったんじゃないっスか?ますますクマみたいっスよ」
…と、そんな微笑ましい挨拶を交わしたあと、島のほうから切り出してきたのだった。
「ところで知ってるか?つい先日真行寺とまりあが署に来てな…」
そんなわけで、わずか二日間で瞬く間に「噂」は広まった。
「聞いたか?なんでもトップがようやくまりあさんに愛の告白をしたとか…しかも警察署で」
「待て、オレが聞いたのは少し違うぜ。トップが花束を差し出してまりあさんにプロポーズしたって…」
「それはいくらなんでもウソくさいだろ。トップとまりあさんがギャラリーも気にせず派手なラブシーンを見せつけたって」
「イキナリあの人がそんな軟派なことやるかぁ?オレはまりあさんの方が押し倒したって聞いたぞ」
「え?殴り合いの大ゲンカした挙句にまりあさんにノックアウトされたトップが泣いて許しを求めたって…」
「殴り合い!?いくらトップでもまりあさんを殴るなんて許せねぇ!!」
「…っていうかさ、なんで警察署なワケ?」
………謎は深まるばかりであった。
ささやかな謎が氷解したのは、バースデーパーティの日のことだ。
「ああ、つまり…痴漢とっ捕まえて警察に行ったまりあさんをマスターが迎えにいったんですよ。そしたら何があったのか、それまでケンカしてたのに仲直りして帰ってきたんです」
まさかまりあが痴漢に襲われそうになったとは言えず(そんなことを明かそうものなら、犯人はまりあにのされて傷心しているというのに、元ガンマンのメンバーに半殺しにされてしまう…)、義武はそんな説明をした。
「はぁん、それで警察署なんかにいたのか」
「そ…それで、一体トップはまりあさんに何をしたんだ?怒ってたまりあさんが機嫌を直すなんて…よっぽどの事をしなきゃ無理だぞ」
「さぁ、オレもそこまでは…」
肝心の謎は結局明かされなかった。
本人に問いただすなんて恐ろしいことは彼らにはできない。こういう話題をトップが好まないことはよくわかっている。意外と純朴な人なのだ、からかうなんてもってのほか。
下手に逆鱗に触れたらどうなるか…
(し…しかし…知りたい!!!)
彼らは力いっぱい願うのであった。
頼みの綱は、噂の発生源、島警部だけである…。