・・災厄の夜(1/4)・・

 喫茶ガンマンでのバイトを終え、義武は沢村家へと向かっていた。
 バイトは週5日ほど、平日は夜7時30分までだ。
 家出をしてガンマンに居候していた頃は閉店まで付き合ったのだが、今は帰ってから夕食を作らなくてはならないのでマスターが気を利かせて早くあがらせてくれるようになった。
 大柄で一見無愛想なマスターだが、族時代皆に慕われていたのは兄貴分的な面倒見のよさからである。
 まぁ、食事をするのが義武一人ならもっと遅くまでバイトさせたかもしれないが、義武は同居人の食事の世話もしなければならないのだ。


 沢村家には現在居候の彼と本来の住人である淳に加えて、淳の友人・晶が寝泊りしている。
 そのうち、食事を作れるのは義武だけだ。
 同居を始めた頃、義武は淳に料理をさせようと包丁を握らせたことがある。
 「じゃあ淳、キャベツの千切りやってみよう」
 「千切りってなに?」
 「……やってみせるからちょっと見てて」
 「あ、これ千切りっていうんだ。切り方に名前があるの?」
 淳は恐ろしいほど料理について無知だった…。包丁の持ち方もなってない。いつ指を切るかとハラハラし、ついに耐えられなくなって彼女から包丁を取り上げた。
 自分でやった方がマシというものだ。
 彼女の成長を妨げることになるがしょうがない、義武は自分の精神衛生を重視した。


 一方晶はというと、やればできるのかもしれないがまったく家事をしようとはしない。
 「オレがやる必要なんてないからな。家にはメイドがいるしさぁ。彼女の仕事を取り上げるわけにはいかないだろ?」
 アメリカ屈指の大企業、ミラーグループの娘だという晶は、堂々と言ってのけた。
 先月日本に来たときは、恋人の死が引き金となって自殺願望にとりつかれていた晶だが、再びやって来た彼女はすっかり立ち直っていた。
 立ち直ったのは喜ばしいことだ。だが、しかし…。
 (…以前よりも、食欲がパワーアップしている気がするんだが、それはオレの気のせいだろうか?)
 死にたがってる時でさえ大の男並によく食べた晶である。それが今では食欲を阻むものもなく食べたい放題。
 なるほど、あれだけ食べればああ大きくもなるだろう。義武はいまだに晶が女だとは信じられないが、その一因をになっているのが彼女の体格だ。なにしろ身長が180センチある。そこらの男よりデカい。
 しかも、世の女性が羨むであろうことに、食べまくっているのに太る気配はない。きっとあの傍若無人なテンションを維持するのにエネルギーを使うんだろう、と義武はふんでいた。


 ガンマンから沢村家までは電車で3区間、ちなみに三ツ葉学園までは反対方向に1区間だ。義武は駅構内に足を踏み入れた。やけにざわついている。
 『只今、事故のため運転を見合わせております…大変お待たせいたしております…』
 なんと。どうりでやけに混雑しているはずだ。
 (困った…よりによって)
 タクシーで帰ろうか?乗り場にはきっと何人も並んでいるだろうが、復旧の見込みがない電車を待つよりは早いかもしれない。
 (…でも待てよ?)
 ふと、財布を覗いてみる。漱石さんが2枚しか入っていない…しまった。
 (ダメだ、タクシー使ったら食料買えなくなっちまう…)
 冷蔵庫の中身はバッチリ頭に入っている義武だ。今日の夕食を作るにはスーパーで買い物をしていかなくてはならないのだ。
 (しょうがない。電車を待ってみるか…少し遅くなるけど)

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