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災厄の夜(3/4)
近くの派出所で事情を説明し、さてようやく帰ろうと思った時だった。
「おにーちゃん、行っちゃやぁ!」
それまでおとなしくしていた少女が泣き出してしまったのだ。
「あいかひとりじゃいやぁ!おにーちゃんといっしょがいい!」
少女の名前は「あいか」ちゃんといった。
その派出所には強面な警官がひとりいるだけで、あいかちゃんはすっかり怯えてしまい、義武が事情を説明している間も彼にしがみついたままだった。
(しょうがないなぁ…)
見捨てていくことはできない義武であった。
「あいかちゃん、電車に乗ってきたって言ったよね?お母さんと二人で来たの?」
「うん。あのね、おもちゃを買ってもらったの」
義武が居残ってくれると安心したのか、すっかり泣き止んでにこにこと答えた。
「?」
この駅周辺にはおもちゃ屋はもちろん、おもちゃが置いてあるデパートもない。どちらかといえば住宅が密集しているのだ。
(あおいおようふくがお母さんなの)
まさか…。
「もしかしてあいかちゃん、青い洋服来た女の人についてきちゃったの?」
「だってお母さんなの。でもね、お母さんじゃなくなってたの。」
「あ、この子もしかして…」
警官も気付いたらしい。
あいかちゃんは駅で母親が切符か何か買うため離れた隙に、別のよく似た服装の女性にくっついて電車に乗ってしまったのだ。そして、この駅で降りてしまったというわけか…。
「沿線の派出所に連絡を入れてみよう。どこかに迷子の届出が出ているかもしれない」
「お願いします」
ようやく帰れそうだった。
あいかちゃんの家はここから6区間離れた駅の近くだった。
すっかり気に入られてしまい、、別れるのを嫌がるあいかちゃんをなだめになだめて、義武はようやくスーパーへと戻っていった。
(う…もうすぐ10時…。こんな時間に夕食かぁ…)
絶対、間違いなく、怒ってる。
(せめて外食にでも出ててくれればいいけど…)
これまでの行動パターンからすると淳も晶も、義武が帰ってこないから外食、という発想はおそらく出てこない。
律儀にみんなそろって食事をしようとするところは可愛げがあるのだが、ただ待ってるだけでなく、少しは料理にチャレンジしてみてもいいと思うのだが…。
(でも淳に料理させるのは怖い…かなり…)
与り知らぬところで包丁を握られては、何が起こるかわからない。間違いなく流血ものだ。…そんなことを考えながら義武は肉売場に向かった。
今夜のメインは鶏のから揚げ。あとは中華風のスープと八宝菜と…。義武は最近中華料理に凝っているのだ。
(う…!)
…だがしかし、鶏肉は売り切れていた。
そういえば、閉店は10時だ。生ものはほとんどなくなっているではないか。
(まいった…メインの食材がそろわない…!!)
絶望的な気分になってきた…。