HOMECOMIC番外編

災厄の夜(2/4)

結局電車が復旧したのは40分後だった。
 (晶…怒ってるかも…)
 電車に揺られながら義武は心の中で溜息をついた。
 淳は自分がまったく料理ができない自覚があるので、作ってもらえれば多少嫌いなものがあろうが、時間が遅かろうが文句は言わないのだが、晶は違うのだ…。

 電車を降りると駅前のスーパーに立ち寄った。
 どこに何があるかは把握済みである。買い物籠を手にし、目指す売り場に向かおうとしたそのときだった。
 「え…っく、うぇぇぇん…っ」
 「?」
 見ると、出口のところで4、5歳くらいの女の子が泣いている。
 (こんな時間に、小さな子が一人?)
 入り口付近で立ち止まっている義武に気付いて、少女が顔を上げる。目が合ってしまった。
 「どうしたの?」
 嫌な予感がする。…予感はするが、この状況では無視はできない。
 「お母さん、どこか行っちゃった」
 …やっぱり。嫌な予感は的中してしまった。少女の前にかがみこみ、義武は更に尋ねてみた。
 「きみ、おうちはどこ?ここまでどうやって来たの?」
 「んとね、でんしゃにのって来たの。えきは人がいっぱいでね、あおいおようふくがお母さんなの」
 …なんだかわけがわからない。
 警察に連れて行くべきだろう。店の人間は忙しそうだから構ってはくれないだろうし、どうやら義武が引き受けるほかなさそうだった。


 その頃沢村家。
 「義武遅いね。何か連絡あった?」
 「いや。あいつ、携帯電話持てよなぁ…連絡のとりようがないじゃないか」
 義武も淳も携帯電話は持っていない。今時珍しい高校生だが、使わないから必要ない、と割り切ってしまっている。
 なにしろ電話で話すほどの友人(?)といえば、軽音の阿部と仲代、それに淳が日本に来た頃知り合った高見沢詩織くらいのものだ。(ちなみに詩織も携帯を持っていない。)
 「バイトはとっくに終わってるはずだけど…もう9時まわるよ?何かあったのかなぁ…」
 「さぁ…あぁもう、腹減ったなぁ。…よし!何か作るか」
 「え!?晶、料理できるの!?」
 「おい、このオレを誰だと思ってる?世界にはばたく天才博士、シェリル・ミラーだぞ。料理のひとつもできなくてどうする!」
 「すごい…さすが晶!いつの間に覚えたの?」
 「覚えちゃあいない」
 「…え?」
 「そのへんに瀬川の料理の本があっただろ?それ見りゃ作れるんじゃないの?」
 「……」
 とっても不安を感じる淳であった…。